<後編>ドローン国家ライセンス制度を解説!
・Level 4 飛行時の“操縦の安全” を担保する一等資格
都市部上空を含む有人地帯での補助者なしの飛行(レベル4)は、利便性の向上を図ることはできるものの、安全性が担保されていないと社会実装は成り立ちません。
そこで、空の安全を担保しつつLevel 4 の飛行を解禁する必要があり、機体の安全・操縦の安全・運用の安全の3つの安全 = 機体認証制度・操縦ライセンス制度・運航管理要件…となります。
国家操縦ライセンスの一等資格は、Level 4 飛行時の操縦の安全を担保するための技能証明の役割を担います。
・ドローン(無人航空機)の利活用促進を図る二等資格
これまでもJUIDAやDPA、DJI Camp など民間が発行する操縦ライセンスは存在しています。しかし、これまでの民間操縦ライセンスでは管理団体ごと・ライセンスごとに証明できる技量は異なり、その仕組みを飛行許可・承認の簡略化・合理化に反映させることは限定的にならざるを得ず(現状、民間ライセンス取得者は申請書類の一部省略のみ可能)、その技能証明の利点を活かしきることができませんでした。
また、国土交通省への飛行許可・承認申請件数は年々増加しており、平成28年度には13,535件だった許可・承認件数は令和2年度には60,068件にもなっています。航空法で飛行が禁止されている空域や飛行方法でも申請によって安全性が認められれば飛行許可・承認が得られるこの仕組は、飛行の発展性と安全を担保するためには必要な仕組みです。
一方で、一定の技量を持ったドローン運用者・審査側双方にとって手間となっている面も事実です。ドローンの利活用を促進するためには、ルールの緩和的な措置や手続きの簡略化・合理化といった取り組みも必要でしょう。
そこで、国が統一規格の操縦ライセンス制度を新設することにより、ドローン(無人航空機)操縦者に必要な技量や知識を明確化するとともに、その証明された技量や知識に基づいて手続きを簡略化・合理化しようというものになります。
出典:無人航空機飛行に係る許可承認申請件数の推移
国家操縦ライセンスの取得方法
操縦ライセンスの取得には、下記の2つの方法があります。
1)一発試験:国の「指定試験機関(具体的な場所は未発表)」にて学科試験・実地試験・身体検査に合格する
2)スクール受講後の試験:「登録講習機関(22年9月より登録開始)」として受験用講習を提供するドローンスクールなどで学科受講・実技講習・試験に合格し、国の「指定試験機関」にて学科試験・身体検査に合格する(実地試験は免除)
1または2の方法で合格後、各種合格証明書を取得し、本人確認の上で新設予定のシステム上で申請、必要な手数料や登録免許税の支払いを行うと国家操縦ライセンスが発行されます。
・学科試験の内容
学科試験は全国の試験会場のコンピュータを使い、三択問題となる予定です。試験科目は操縦者の行動規範、関連規制、運航、安全管理体制、マルチローター・マルチローター・飛行機などの各ジャンルに必要な知識など幅広く問われます。
【学科試験概要】
(形式)
三択問題
(問題数 / 試験時間)
一等資格:70問 / 75分程度
二等資格:50問 / 30分程度
・実地試験の内容
機体の種類(シングルローター・マルチローター・飛行機等)に応じた実技試験となります。実機による操作や口頭試問などを検討中とのこと。試験科目は飛行前のリスク評価、手動操縦、自動操縦、緊急時対応、飛行後の記録などです。後述の登録講習機関の講習を受講、実地試験に合格していれば指定試験機関での実地試験を免除することができます。
・身体検査の内容
視力、色覚、聴力、運動能力等について基準を満たしているか確認を行います。実施方法は3つあり、公的免許証があると便利です。
① 公的免許証等の提出(自動車運転免許証、航空身体検査証明書など)
② 医療機関の診断書の提出
③ 指定試験機関の身体検査
登録講習機関の活用
経験豊富なパイロットは一発試験で国家操縦ライセンス取得を目指すのが効率よいかもしれません。しかし、多くのパイロットは独学で合格に必要な知識と技能を身に着けるのは多くの労力と合格できないリスクを伴う場合があります。その際には「登録講習機関」で受講・合格し、実地試験が免除される状態で試験を受けていただいたほうが確実かもしれません。
現在、1,200校以上の民間ドローンスクールが存在しますが、そのうち一定の講習要件を満たすスクールは「登録講習機関」として受験用講習を提供する予定です。登録講習機関実施の実技講習・試験に合格すると、指定試験機関で受験した際の実地試験が全て免除されます。
※登録講習機関は今年9月から登録受付開始予定なので具体的なスクールは現段階では未定
出典:レベル4の実現に向けた新たな制度整備等
すでに取得している民間ライセンスの役割
JUIDAやDPA、DJI CAMPなどの民間ライセンスをすでに取得している方も多いかもしれません。もちろん、その民間ライセンスが無駄になるようなことはなく、登録講習機関での受講時間を少なくするなどの優遇措置が受けられる事が発表されています。(詳細の発表は7月の予定)
特に二等資格は、多くのドローンパイロットに利便性をもたらすライセンスとなっていますが、その試験内容は現状の民間ライセンスの学習内容と重なる部分が多く、登録講習機関でイチから学習する必要性は薄いように感じます。それゆえ、既存の民間ライセンス取得者は登録講習機関での受講時間を少なくするなどの処置がされると思われます。
民間ライセンスをすでに取得している方は、登録講習機関で効率的に短時間受講して実地試験を免除、指定機関で学科試験・身体検査で合格…というのが確実かつ効率的な国家操縦ライセンス取得の道すじとなるでしょう。
《参考資料》
・無人航空機飛行に係る許可承認申請件数の推移
・無人航空機の有人地帯における目視外飛行(レベル4)の実現に向けた検討小委員会
中間とりまとめ
・レベル4の実現に向けた新たな制度整備等
>>前編はこちら
執筆者
田口 厚(たぐち あつし)
株式会社Dron é motion 代表取締役 / ドローングラファ
2016年12月よりロボティクスアカデミーにて講師及びカリキュラム監修を担当
1998年〜IT教育関連NPOの立上げに参画し、年間60以上の小学校現場における「総合的な学習」の創造的な学習支援や美術館・科学館等にてワークショップを開催。その後Web制作会社勤務を経て中小企業のWeb制作・コンサルティングを主事業に独立。
その後、2016年5月〜現在では「ドローン×地方創生」をテーマに観光集客の向上を目的とした空撮動画制作を行う株式会社Dron é motion(ドローンエモーション)設立。各地自治体や観光地のPR動画コンテンツ制作の傍ら、JUIDA認定ドローンスクール講師等として600名以上の卒業生を輩出し、企業研修、eラーニング等の講師としても活動。また、ドローン専門メディア「DRONE.jp」等のメディアでレポートや執筆活動もしている。